アマゾンプライムビデオでも配信中の「劇場」を映画館で観てきた

新型コロナウイルスの影響で予定通りの上映ができず、アマゾンプライムビデオでの配信とミニシアターでの上映が同日スタートになった映画「劇場」を渋谷のユーロスペースで観てきました。アマゾンプライム会員なので動画でも観れたのですが、あえて映画館で。

映画館に行ったのは、行定勲監督やその師匠に当たる岩井俊二監督の映画が好きで、一時期お世話になったから。社会人になって学生時代に付き合っていた彼女と別れ、暇を持て余して映画を観はじめたときに出会ったのが、岩井俊二監督の作品で、当時の行定勲さんは助監督だったような気がします。

映画業界もかなり苦しい状態ですから、若い頃にお世話になったお礼ができるなら、映画館に行くことなのかなと。でも通常料金ではなく火曜サービスデーで1,200円。支援したい気持ちはあっても財布はあの頃よりも薄いわけで、現実的な支援の形ということで。

アマゾンプライムビデオでも収益にはなるのかもしれませんが、わたし自身は1円も払わないわけで、それはどうなのかなと。

というわけで午前中で仕事を切り上げて渋谷まで。途中、映画の舞台にもなっている下北沢で乗り換えようかと思いましたが、あまり余計な感情を差し込まないほうがいいかと思い、代々木上原から赤チャリに乗って渋谷まで。

久しぶりのユーロスペース。サービスデーなので満席になるかと思いましたが、上映数も多くて平日の昼間というのもあり、観やすい座席を確保できました。今は映画館もソーシャルディスタンスで、座席は1席ずつ空けてあります。これって映画デートとかどうするんだろうと、誘う相手がいないのに気になったり。

それはともかく映画「劇場」です。いや、映画について書くのはネタバレになるのでほとんど書けないんですが(これが映画レビューの悩ましいところ)、自分が何を感じたかという、誰も得しない情報を語っていこうかなと。

演劇の世界で夢を追う男と、自分の夢を置いて彼を支える女の恋の話。又吉直樹さんの小説が原作で、もちろんわたしは小説「劇場」を読んでいません。流行りものは昔から苦手なんです。出演は山崎賢人さんと松岡茉優さん。

物語には大きな展開はありません。誰も大病を患わないし、不倫関係のようなどろどろしたものもなく、ただ男は夢を追い続け、女はそれを支えているだけなのに、ちょっとしたことで、お互いの歯車が噛み合わなくなるというのを繰り返し、最後には……これ以上はネタバレになるので書きません。

最初の5分から映画が終わるまで、ずっと苦しかった。少し前に見た映画もこんなことがあった気がするのですが思い出せません。もどかしさと苛立ち、そして「理解できない」という想いが心臓を鷲掴みしてきて、息ができなくなるかと思うほど。

もう1回観れるとしても、きっと観ない映画です。

それは悪い意味ではなく、自分が耐えられないという意味で。山崎賢人さんが演じる男は、才能がないと思われていることを知りつつも、自分に才能がないことを諦めきれないでいる。多くの才能に嫉妬し叩きのめされても演劇の世界にしがみつく。そのひたむきさにわたしが耐えられない。

物語の中で、恋人に「ディズニーランドに行きたい」とせがまれますが、彼は「自分以外の人が作ったもので恋人が喜ぶ姿を見たくない」というニュアンスのことを言います。自分に足りないものを思いしさらされました。わたしに足りないのはこの傲慢さ。

たかが映画の台詞、たかが映画のやり取りだと思うかもしれませんが、芸人として成功し芥川賞作家にもなった又吉さんが綴った言葉であり、日本を代表する映画監督の行定監督が選んだ言葉。成功するクリエイターの頭の中を覗き込んだら、2人とも自分にはない感覚を備えていたわけです。

わたしだって表現力が豊かな人の文章を読むと嫉妬しますが、恋人がそれを読んで心が動かされたとして、そのことに嫉妬するほどの傲慢さはありません。自分の才能、自分の可能性への執着心とでも言えば伝わるでしょうか。それを才能の差と認めるべきか否か。

でも山崎賢人さんが演じる男は、映画の中では自分の才能のなさに苦しみます。ときとして弱さから逃げ、ときとして弱さを恋人にぶつける。どうしようもない男なのにやっぱり魅力的で、よけいに自分の至らなさを見せつけられる気がして苦しくなる。

その苦しさに耐えられそうにないから、もう1回観るのは無理です。

それと同時に、行定勲監督や岩井俊二監督の映画に救われた20年前のことがフラッシュバックしてきました。彼女と別れるまえの些細なケンカや歯車が噛み合わなくなったこと。そして、その後に好きになったこの映画の主人公と同じ名前の大切な人のこと。

そんな偶然はずるいなと思いながらも、その名前が呼ばれるたびに締め付けられるわけです。もっともわたしのケースは、この映画のような恋には至らずでしたが、今度会うときには必要以上に意識してしまいそうです。

この映画のキャッチコピー「一番会いたい人に会いに行く。こんな当たり前のことがなんでできなかったんだろう」。これもちょうどこの春にわたしの胸に深く突き刺さった出来事にシンクロしました。もうここまでくると偶然ではなく運命。

観るべくして観ることになった映画。

きっと観る人によって感じるものが違うのでしょうが、どこにでもあるような恋をして、どこにでもあるような別れを経験し、そして大人になった人ならほんの少しは締め付けられるようなこの感覚を共有してもらえるのではないかと思います。

アマゾンプライムビデオでも配信中ですので、プライム会員はぜひ観てください。できれば映画館で見て欲しいのですが、こういうご時世なので無理強いはしません。間違いなく行定勲監督の代表作になる映画ですし、今のわたしたちが求めているものがきっとそこにあります。

Amazon Prime Video:劇場
映画『劇場』オフィシャルサイト:https://gekijyo-movie.com

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