石原慎太郎さんから学んだこと【本物のホスピタリティとは】

人生を変えるような場面というのが、生きていれば何度かやってくるもの。私にとってのそのひとつが石原慎太郎さんでした。その日は冷たい雨の降る1日で、東京マラソンの応援をするために沿道を歩いていた私が目にしたのは、カッパを着てエイドに立ち、ランナーに水を配る石原慎太郎さんの姿。

当時は「すごいことをする人だな」くらいにしか思いませんでしたが、自分がマラソン大会やランイベントを主催する立場になって気付きました。私にとってのイベント開催のホスピタリティはあの瞬間に学んだということを。それは卵から孵ったばかりの雛鳥が、最初に見たものを親だと思うように、私もあの姿が主催するということなのだと、本能として受け入れました。

私は石原慎太郎さんについては、それほど詳しくは知りません。豪快なところがあり、失言が多い人という印象くらいは持っていますが、東京マラソンを実現させた人という認識程度。直接話をする機会もなければ、同じ場に立つこともないので好きも嫌いもなく、ただ不思議な魅力と熱い情熱を持っている人だなと。

当時は石原慎太郎さんがエイドに立つことがどれほどすごいことかなんて考えもしませんでした。でも、あれは何としてでも東京マラソンを成功させたい、世界に誇れるイベントを東京で開催したいという情熱が取らせた行動なんだと今ならわかります。打算的にエイドに立ったわけではなく、せめて自分に出来ることをと考えたのでしょう。

コースに立ってハイタッチでも良かったはずです。でも主役はランナーという意識があったのでしょう。目立ちたいわけでもなく、居ても立っても居られなくて、衝動的にエイドに入ったのかもしれません。いま、そんなことが出来る大会主催者はどれくらいいるのでしょう。滅私の気持ちを持っている指導者がどれくらいいるのか。

あれから東京都知事も代が変わり、最近の都知事はゴール付近でエアコンを効かせたバスの中で待機して、表彰式ではポケットに手を突っ込んでいるとのこと。まあその都知事は、コールしたランナーにバナナを配っていたとのことなので、何もしてないわけではありませんが、そういうところに本音が出るというもの。彼女には情熱はなかったのでしょう。

別にそれを悪いとは言いません。東京都のトップくらいになれば、自分は偉いのだと思い込んでも仕方ありません。人間とはそういう生き物ですから。むしろ、なぜ石原慎太郎さんが、あのような行動を取れたのかというほうが不思議。ただ、自分が主催するようになって分かるのは、頭で考えているのではないということ。瞬間瞬間に進むべき道が見えて、そこに向かうだけなんです。

私にそれが出来るのは、エイドに立つ石原慎太郎さんの姿がしっかりと焼き付いているから。もちろんそれだけではありませんが、その影響は小さくありません。だとしたら、石原慎太郎さんもどこかでそういう体験をしてきたことになります。本能的にそれを正しいと思える体験をして、それを何度もなぞっているうちに、考えずに動けるようになったのでしょう。

また、彼は作家さんだったので、人の心を動かしたり、相手が何を望んでいるかを読み取るのが得意だったのでしょう。名もなき物書きの私ですらそうなのですから、ベストセラー作家の石原慎太郎さんレベルになると、簡単に人の心を掌握できたと容易に想像がつきます。毎日がその繰り返しだから、どんなときもすぐに最適解を導き出せる。

いずれにしても偉大な人です。今でも好きも嫌いもなくただ大きな存在で、多少感謝はしていますが、ご冥福をお祈りするような関係でもなく。ただ、私も物書きの端くれなので、思うことは書き留めておこうかなと。これからの自分が、どんな立場になってもホスピタリティを忘れないようにするために。あの日の記憶を永遠にするために。

あの頃とはランナーを取り巻く環境も、私自身の環境もまったく違うものになり、ランニングやマラソンが市民権を得て、走ることが特別ではなくなりました。もう多くの人がフルマラソンを走ることへのハードルが、そこまで高くないことを知っています。そうなったのは紛れもなく東京マラソンがあったから。これだけ多くの都市マラソンができたのも東京マラソンのおかげ。

たった1人の情熱が未来を変える。生きている間に、いいものを見させてもらいました。私に同じことはできませんし、やりたいとも思いませんが、あの日に学んだことを、何らかの形で次の世代に受け継いでいければなとは思います。具体的に何をするかは見えてませんが、少なくともそれが受け継いだ者としての義務ですから。

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