過去の幻想と夢や希望のない時代に夢や希望を持つということ

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わたしは買い物が好きなタイプでした。「でした」というのは、ここ数日に何度か「あぁ欲しいものなんて何もないんだな」と感じたことで、少なくとも今のわたしは物欲というのがとても薄い状態にあります。

幸い海外に行きたいという欲や、もっと強いランナーになりたいという欲は強いため、無気力人間になることもなければ、隠居生活を始めようとも思いません。欲のベクトルがひとつ減っただけのことです。

物欲というベクトルがなくなったことで他の欲がさらに高まる。これはこれでいい循環ですが、世の中の人が物欲がなくなると経済というのは回らないんだろうなと感じています。

実際に「若者の◯◯離れ」という内容の記事が定期的に上がりますが、若者に欲がない状態が問題だというような方向性で語られています。欲がないのは確かに問題ですが、若者にないのは欲ではなくお金と希望です。お金がないから買えない、希望がないから蓄えておく。ごく当然の防衛意識になります。

わたしにはお金がありませんが希望があります。高度経済成長前の日本では、わたしのようなお金はないけど希望があるという人間ばかりだったのではないかと思うことがあります。

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頑張れば頑張るほど報われる時代がこの国にも確かにありました。そしてその時代の思考のまま現代の若者について語ろうとする人たちがいます。頑張れば報われるというロジックはすでに崩壊しているにも関わらず、「頑張らないから報われないのだ」と若者を非難します。

作家の村上龍さんは『「昔は良かった」なんて大嘘だ昔はひどい時代だった。』と、何度もエッセイの中で語っています。過去は美しく見えるだけで、実際はいい時代でもなんでもなかった。まだ41年しか生きていないわたしでも、「昔は良かった」という言葉には違和感があります。

そして「俺達の若かった頃は」という言葉もフェアではないなと感じます。少なくとも30年前の若手社員よりも、現在の若手社員のほうが何倍もの仕事量をこなしていますし、生産性も高いのに、美化した自分の過去と比較して語る人たちがいます。

「俺たちが若かった頃はすぐに車を買って、週末はドライブを楽しんだものだ」そんなことを言われても、今の若者は「そうですか」くらいしか言えません。その時代はドライブくらいしか楽しみがなかっただけで、スマホもなければ海外にも簡単には行けませんでした。

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そして今のこの時代を作ったのは、週末にドライブを楽しんだ大人たちなのですから、自分たちがこんな世の中にしておいて、「昔は良かった」「俺達の若かった頃は」なんて言われても若者は困惑するだけです。

ただ、やっはり今の若者に夢も希望もないことはとても気の毒には感じます。夢も希望も自分でつかむものだけど、何でも簡単に手に入る時代にハングリー精神を持って挑戦するというのは簡単なことではありません。

じゃあ夢や希望は持たなくてもいいのか?

夢や希望がないことはある意味、豊かさの象徴でもあるので良いか悪いかは別として、日本人の先輩たちが目指していた先に用意されていたものです。「昔は良かった」と言う人たちががむしゃらになって働いた結果、夢や希望のない時代になりました。

この期に及んで、まだ「頑張れ」と言う人たちがいます。頑張れば道は開ける。頑張ればなんとかなる。

頑張っても道は開けないこともあるし、なんともならないこともあります。世の中には個人の努力ではどうにもならないことがいっぱいあります。もう十分に頑張ってるのに、さらに頑張れと。

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そこで何か起きるのは漫画の世界だけです。現実の世界では心も体も壊れていくだけです。

そうなるくらいなら、夢も希望も持たずにただ淡々と生きていく。そういう道を選んでいる若者はむしろ時代に合った賢い生き方のようにも思えます。心も体も壊したくないから夢も希望も持たない。

じゃあお前はどうなんだと言われると、わたしはやっぱり努力しますし、がむしゃらに夢と希望を持って生きる道を選びます。ただ、それを誰かに押し付けるつもりもありませんし、これはわたしの覚悟ですから誰かが真似をする必要もありません。

絶望を感じながら壊れていくことができるのであれば、それこそがわたしであるとさえ考えています。絶望を感じられるのは希望を持った者だけに与えられた権利です。希望も絶望もない人生で緩く生きるくらいなら、夢と希望のプレッシャーの中、絶望を感じながら死んでいきたい。

わたしは今の若者のように賢くはなれませんが、若者を批判する人たちには違和感があります。ただ、自分のスタイルは賢くよりも泥臭く。人を笑うくらいなら笑われながら生きていきたいというのが、わたしです。

とはいえ、わたしの物欲が下がりすぎている感は否めません。少なくとも周りからみてみっともない感じにはならないように、貧乏丸出しにはならないように気を付けようとは思います。


おしゃれと無縁に生きる
著者:村上 龍
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