オホーツク網走マラソンレポート〜40kmの天国と2kmの地獄〜

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35kmを通過したところで、4時間半以内での完走を確信してた。今回のオホーツク網走マラソンは、シーズン最初のレースであり、裸足のフルマラソンは春以来ということもあって、タイムはまったく気にしていなかった。

とはいえ、サブ4.5とサブ5では、走り終えたあとの気分が違う。

このレースまでにしっかり体づくりをしてきたこともあって、体の声を聞きながら走る。そうすると、ペースが自然と上がり、1kmを5分45秒前後なら無理なく走ることができる。

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取材ランでもあるので、途中で何度も撮影のためにペースを落とすことがあったのだが、それでも30kmを超えても余裕があり、35kmを超えても衰える感覚がない。ならばサブ4.5を狙うべきだろう。

40kmまでは1kmを6分ジャストくらいのペースで抑えて、残り2kmですべてを出し切る。これがわたしの選んだプランだった。ところが残り2kmでわたしの視界に入ってきたのは、想定をしていない景色だった。

遡ること6時間。ホテルの5階にある部屋からゴール地点を眺める。ひまわり畑の真ん中を突っ切る形でゴールに飛び込むことができるコース設定。気持ちいいゴールになることは容易に想像できる。

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全力ダッシュで飛び込むのか、撮影をしながら楽しみながらゴールを目指すのか。この時点でわたしにとって重要なのは、そのいずれかの形でゴールするかを選ぶということだった。

そこからさらに10時間遡った、前日の夜。

フルマラソンを走る前日は本来、お酒も食事も程々にしておかなくてはいけない。ただ、今回は翌日にマラソンを走れずに帰らなくてはいけない仲間がいたことで、「飲むしかないだろう」モードが発動する。

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網走で知らない人はいないであろう居酒屋「蒸気船」。予約もしていないのに、有名人のサインがいくつも壁に書かれた個室に通される。それだけでも特別感があるのに、出て来る料理の美味しいこと。

完全にお腹がはち切れる寸前まで、網走の海産物を楽しみ。ホテルに戻ってからも飲み続ける。本気の前夜祭。もちろん朝起きた段階ではお酒が体に残っている。

そんな状態で、いい走りができると思っているほど、わたしは自惚れの強い男ではない。

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テクテク気持ちよく時間をフルに使って走れればいい。そんな気持ちでスタートラインに立つ。並んだのは定位置の最後方。オホーツク網走マラソンでは、スタート直後に橋を渡るのだが、そこまでは追い越し禁止になっている。

フルマラソンの参加者は2000人にも満たないのだが、わたしがスタートラインを超えるまでにかかった時間は7分51秒。橋を渡って国道に出ても1車線だけがマラソンのコースになるため、無理に追い越しができない。

オホーツク網走マラソンのすごいところは、道路封鎖を最小限に抑えているということにある。一部の網走市民は不便に感じたかもしれないが、ほとんどの人がいつもの日曜日と変わることがない。

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それでも、沿道には少なくない数の地元の人が集まってくる。知り合いの応援なのか、それともお祭り気分で出てきているのかはわからない。ただ、すべてのランナーに全力で声援を送ってくれる。

裸足のわたしは、さらに大きな声で背中を押してもらえる。

1kmを7分くらいでは入れば上出来だと思っていたのだが、二日酔いにも関わらず、思った以上に体が動くこともあって、声援を活かして最初の1kmを6分35秒。次の1kmを6分10秒で走る。そして理解した。

「今日は行ける」と。

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ただ、この時点ではかなり後方に位置している。4km地点にあるエイドで振る舞われたカニの鉄砲汁。わたしの後ろ数名で終わっている。さすがに4km地点では全員分を用意しておいてあげてほしいと思いながら、我先にと鉄砲汁に手を伸ばす浅ましい河童。

自分の体がキレていることを確信したこともあり、その後から始まる上り坂と、アップダウンのある箇所で次々と周りのランナーを抜き去っていく。周りは1kmが7分〜8分ペース。わたしは、6分を切るくらいのペース。

こうなってくると、自分がちょっと走れるランナーのように思えてくる。

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コースは右手にオホーツク海。目の前にはこれから紅葉が始まろうかというような北国の樹々。足を進めていくうちに、自分の心が満たされていくような感覚になっていく。

走れば走るほど、自分が元気になっていくのがわかる。アップダウンがあるため、実際には足に疲労が貯まっていくのも同時に感じている。ただ、それ以上に気持ちよさが勝っている。

このままのペースで行けば、4時間以内の完走も見えてくる。1kmを5分30秒で走ることもそれほど無理なくできる。こんなに調子がいいのはあまり記憶にない。

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自分の調子の良さと、北の大自然がうまく融合されている感覚。

ただし、それも14km地点の能取岬で一度途切れることになる。4時間半のペースランナーが折り返し直前で視界に入ったのだが、そこから200mくらいの砂利道コース。ここで一気にペースダウンする。

14kmくらいはまだ頑張りどころではない。裸足で走るというのはそういう気持ちの切り替えも重要だ。

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他にも写真を撮るために何度も立ち止まっていたので、サブ4は頭の中から消し去った。もともと5時間半から6時間で走るつもりだったので、そんなもんかと思った程度のダメージ。

能取岬の先は、ほとんどアップダウンのない走りやすい状態が続く。

気持ちは一度リセットされてしまったが、快適な気温と美しい景色にやはり気持ちが上がっていく。自然と表情がほころんで、なぜだか分からないが、いろんな人の笑顔が浮かんでくる。

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同じコース上にいる仲間だけでなく、練習会にやってきてくれるラン仲間、大好きだった子や会えなくなった人。そして突然、母や父の顔が思い浮かぶ。その瞬間に心の奥にしまい込んでいた感情が溢れ出してきた。

複雑な感情が一気に解き放たれ、走りながら目に涙が浮かんでくる。

そしてわたしは、いま網走を走っていることに感謝した。自分だけではここに来ることはなかった。自分だけではそもそもマラソンをしていなかった。多くの人との出会いがあって、いま網走を走っているという奇跡。

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35kmで天童ラ・フランスマラソンが出しているエイドで、温かいお茶を飲み。気持ちを落ち着かせたところで、一気にスイッチを入れる。タイムは気にしないが、出し切ることはしたかった。

そのためのサブ4.5というタイム設定。

ただし、それほど無理はない。この時点では1kmを6分ペースで走れば十分に間に合う状態。自分の気持ちを緩めないためだけのサブ4.5という目標でしかなかった。そう、40km地点の曲がり角を曲がるまでは。

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わたしの視界に飛び込んできたのは、能取岬を遥かに上回る危険度の高い砂利の道。走れるかどうかではない。歩くことも困難なレベルの道がそこから続いている。

そこまでの道で追い越していった他のランナーが軽々とわたしを追い抜いていく。それもかなりの同情の込められた声援とともに。裸足で抜いていった人に追いつかれるのは、屈辱であり恥ずかしいこと。

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ゴール会場で全力の応援をしてくれる学生たちも、懸命に声で背中を押そうとしてくれる。

学生「がんばってください!」
河童「いや、無理やって!」
学生「大丈夫ですか?もうちょっとです」
河童「全然大丈夫ちゃうわ、もうちょっとでもないし」

完全に反抗期の子ども状態である。

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それでも足は止めない。1kmを12分以上かけてなんとか進む。 早歩きをするよりも遅いスピード。最終の曲がり角に金哲彦さんがランナーを待っていたのだが、悶絶するわたしの姿を見て大爆笑。

ちょっと金哲彦さんのことが好きになった。

それはともかくラスト400mの直線。両側には見事なひまわりが咲き並んでいたが、もはや頑張る気力などどこにもない。4時間30分以内のゴールはもちろん叶わず、それでいて足裏以外は十分に余力を残してのゴール。

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ネットタイムで4時間39分20秒。

40km地点までは本当にあっという間で、こんな素晴らしい大会は他にないと思っていたが、残り2kmで評価が一気に逆転する。天国から地獄というのはまさにこのことを言うのだろう。

おそらく完走者の中で、最後2kmを最も遅いスピードで走ったランナーだろう。2km走るのに24分44秒かかっている。最後に大きなオチが待っていた。

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ただ、これも走り終えたらいい思い出。

ゴールしたランナーには、無料でドリンクの提供があり、もちろんサッポロクラシックビールをいただくこともできる。さらに400円分の出店で使えるチケット。

荒れたコースとは正反対の気持ちいい芝生の上に転がっていただくビールと、鹿肉のビーフストロガノフ風料理の美味しいことといったら、そこは紛れもなくランナーの天国だった。

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42.195kmのうち40kmを気持ちよく走ったうえに、ご馳走が待っているマラソン大会。とてもフルマラソンが2000人規模の大会とは思えない豪華なゴール会場。

来年は最後の2kmをどう克服するのか。すでに気持ちは、来年のオホーツク網走マラソンに向いている。

感極まるほど楽しめた北の大地の40kmと、かつてない絶望の淵にまで追い込まれた2.195km。

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断言しよう。オホーツク網走マラソンは数年後、クリック合戦が行われることになる。ランナー同士の口コミで、あっという間に大人気大会になっていくはずです。

もちろん完璧な運営というわけではありません。後半の人はエイドの給食が十分に行き渡っていないでしょうし、完走者が多すぎて、フィニッシャータオルが足りなくなるハプニングもありました。

改善すべき点はたくさんありますが、ただそれは反省し改善していけばいいだけのこと。

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良い大会にするための、地元の人たちの情熱が素晴らしい。そのベースがあれば、大会そのものはいくらでも進化していけます。たくさんお金をかけても情熱がなければ、大会の評判は散々なものになります。

情熱があり、他の大会にはない大自然があり、観光スポットにも恵まれているオホーツク網走マラソン。この大会は人気の大会にならない理由がありません。

というわけで、参加しやすいうちに参加してみることを、強くおすすめします。


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著者:昭文社 旅行ガイドブック
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