「ロードレース再開についてのガイダンス」でマラソン大会は再開できるのか

「ロードレース再開についてのガイダンス」でマラソン大会は再開できるのか

6月30日に日本陸連が「ロードレース再開についてのガイダンス」を公開しました。実質的に、これがマラソン大会の再開に向けての道筋であり、現時点で再開できるかどうかの判断材料になります。ではこのガイダンスが出たことで、マラソン大会再開に向けて動き出すことはできるのでしょうか?

ここでは公開されたガイダンスの内容を確認していきながら、マラソン大会の今後について考察していこうと思います。

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最大限の感染防止と陸上競技の再開の両立

まず日本陸連の方針としては、感染防止を大前提としています。何よりも感染防止を重視するものの、その状況の中でもマラソンに限らず、すべての陸上競技を再開するために、なにをどうすべきかを考えて、このガイダンスが作られています。

その道は決して簡単なものではないことを日本陸連は把握していますし、それでも中途半端なことをするのではなく、きちんと筋道を立ててマラソン大会のあるランニングライフを取り戻す方法を模索した結果だということをまずは頭の片隅に置いておいてもらえればと思います。

こんな前置きをするのはもちろん理由があります。勘のいい人はわかるかと思いますが、ガイダンスの内容はとても厳しいものであり、そして絶望的なものでもあるのが読み進めていくとわかります。それは日本陸連が悪いわけではなく、そうするしかないのだという部分をわかってもらえればと思います。

ロードレース開催の前提条件

ロードレース開催の前提条件として6つの条件が提示されています。それぞれの条件について難易度も含めて考察していきます。

1.緊急事態宣言が解除されていること。
 ・移動制限の解除
 ・不要不急の外出自粛の解除
 ・店舗営業自粛の解除
 ・学校において部活動が認められている。(※高校生以下)

これはもう問題ないというか当然のことです。緊急事態宣言や自粛要請などが出ている状況下で、マラソン大会などしている場合ではありません。ただ例えば東京だけ緊急事態宣言が出ている場合に、例えば福岡の大会はどうなるかというような点には触れていません。

これはどちらにも取れるので、後から揉める部分になるかと思います。おそらくすでに日本陸連に問い合わせをしている大会もあるはずです。

2.ロードレース開催のコースを通過する全ての管轄する自治体からイベントの開催が認められている。

こちらも当然ですね。自治体の許可なしにそもそも道路の使用許可もでないでしょうし、公園などで開催する場合も同じです。そもそも主催もしくは後援で自治体が入っている大会がほとんどでしょうから、自治体の認可はある意味これまでと変わりません。

ただ自治体が簡単には認可しない可能性はあります。地域住民からの反対が考えられ、マラソン大会を開催する理由がきちんと説明できないのであれば、自治体はリスク回避のために認可しないという例が出てくるはずです。

3.大会開催都市もしくは地域において、新型コロナウイルス感染症に関する診療体制が整っている。緊急時の 後方支援病院がある。

ここから少し厄介になります。新型コロナウイルス感染症に関する診療体制に関してはおそらくどの自治体でもそれなりに揃っているかもしれませんが、後方支援をしてくれるかどうかというのは難しいところ。わざわざそれをするメリットが病院側にあるかと考えると難易度が上がります。

どの病院だって必要以上に人を受け入れたくないはずです。それも新型コロナウイルス関連の患者がやってくる。取らなくてもいいリスクをどうやってとってもらうのか、主催者は頭を悩ますことになります。

4.ロードレースに関わる全ての人(参加ランナー・チーム関係者・大会/競技役員・観客・メディアなど)の健康状態の管理体制が整えられていること。
開催1週間前の体調報告・検温の義務、および終了後2週間の体調管理・検温の義務

これが絶望的です。数十人規模なら問題なくても、1万人以上集まるマラソン大会において、これを正しく行うのは無理です。どこまで正確に行うのかにもよりますが、虚偽の申告をしてくる人は一定数出てくるはずです。

5.大会主催者は、感染者、濃厚接触者、感染疑い者が発生した場合の手順を定めた「感染症予防対策マニュアル」を作成していること。

こちらはそれほど問題ないはずですが、手間が増えてしまいます。むしろベースになるマニュアルをどこかが作り、それをシェアするのがいいのかもしれません。そうなると動くべきは日本陸連ですが、きっと日本陸連はそこまではやりたくないはずです。

もっともイベント会社が用意するだけなので、他のことほどはハードルが高くありません。

6.陸上競技活動再開のガイダンス「競技会開催について」に沿った競技会運営をおこない、大会終了後に指定 の報告書(検討中)を提出すること。

こちらもそれほど問題はありません。手間がかかるというだけのことで、できないことではありませんし、現実的な内容です。

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マラソン大会を開催するに当たってのハードルとなるもの

前提条件をクリアしていれば大会が開催されるかというとそうでもありません。これ以外にも「こうすべき」と決められている内容がいくつかあります。

  • ソーシャルディスタンスを確保した会場計画
  • 大会当日の検温実施
  • 競技を行っている時以外はマスクを着用
  • ナンバーカードの引き渡しは郵送
  • ウェーブスタートの推奨
  • 15 分以上同じ場所に滞留させない
  • 給食での提供物は個包装のものとする
  • 給水所にスポンジは使用しない
  • 完走メダルや賞状などの記念品は当日渡さず後日発送
  • 記録証やリザルトなどは印刷せず極力オンラインで発行
  • 参加ランナーに衣服などは脱ぎ捨てないよう周知
  • 地元住民含め沿道での応援の自粛要請
  • 沿道から声援を送らない
  • ハイタッチ、私設エイドの禁止

ざっと書き出しただけでもこれだけのハードルがあります。難しいのは更衣室のソーシャルディスタンスです。十分な更衣エリアを確保できない場合には、募集人数を減らすしかなくなります。おそらく最初はどの大会も人数を減らしてくるはずです。

大会当日の検温は義務ではありませんが、おそらく東京マラソンのように会場へのゲートを設けて、1人ずつチェックをするはずです。前日イベントなどもなくなるのでスポンサーが付きにくくなります。

ウェーブスタートやナンバーカード郵送はランナーにとってメリットがありますが、完走メダルが後日発送になるというのは興ざめもいいところです。記録証がオンラインになるのはすでにそういう大会もあるので、すんなりと受け入れてもらえるかもしれません。

衣類の脱ぎ捨てが禁止になるのは環境面からもいいことです。ただ、寒い中スタート地点で上着もなく待っているのはつらいもの。ただ、これからは15分以上の滞留がなくなるわけですので、意外と問題ないのかもしれません。むしろ大会側が15分以上の滞留なしを実現できるのかが大きなネックになるはずです。

そして何よりも応援禁止というのが悩ましいところ。マラソンはランナーだけのものではなく、ボランティアスタッフや運営者、そして沿道の声援があって成り立ちますが、その一部に制限ができたことになります。応援する人のいないマラソン大会がどうなるのかまったく想像できません。

もっとも地方の大会ならそれほど痛手ではありませんが、わたし個人にとっての問題は取材をしずらくなるということでしょうか。きちんと取材申請をすればいいのでしょうが……正直めんどくさい。

日本陸連関係のマラソン大会はしばらく開催されない

結局のところ、「ロードレース再開についてのガイダンス」に従った場合には、マラソン大会を開催するのは現実的ではないのがわかります。感染防止のために高額な費用が必要になりますが、参加者は減らす必要があります。そうなるとスポンサーもお金を出しにくくなる。

さらには後方支援する病院が必要で、自治体の許可もいります。それは地域住民の理解が必要だということでもあります。でも、世の中の大半はランナーではなく、そして走らない人は応援できるわけでもなく、ただ不便を強いられるわけです。開催に対して100%反対意見が出てきます。

反対意見が出てこないとすれば、それは人を呼び入れなくてはいけない観光地や離島のマラソン大会ぐらいでしょう。

あまりにもハードルが高すぎて、少なくとも日本陸連が関係している大会はしばらく開催されそうにありません。東京マラソンが予算を注ぎ込んで開催するということも考えられますが、地元の理解という部分では難しいはずです。

さらにはマラソン大会のあり方が完全に変わってしまいます。給食も以前のような華やかな感じにはできません。沿道の盛り上がりもありません。完走メダルは後日郵送です。そこに面白さを見つけることができるのか。そんな規制が多い大会にわざわざ出たくなるのか。

競技志向の高いランナーにとってはおそらく願ったり叶ったりかもしれませんが、そうではない90%以上のランナーにとっては、マラソン大会に対する魅力が半減します。そういう状況で開催する意味があるのか、参加者にも主催者にも厳しい内容の「ロードレース再開についてのガイダンス」。

マラソン大会が明確に休止に入ったと感じたのはわたしだけでしょうか。

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