五街道完走プロジェクト第4弾「甲州街道〜4日目〜」

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甲州街道ランもいよいよ最終日だ。

最終日だからといって気負うことは何もない。今日も変わらず一歩一歩を積み重ねていくだけ。ゴールの日本橋は間違いなくその先にある。

午前6時の府中宿は小雨。山梨で強烈な日差しに襲われたものの、真夏の旅ランとは思えないほど、この旅は恵まれている。走れなくなるような大雨が続くこともないが、基本的には曇っていて気温が低い。

府中宿を出る前に、大國魂神社でここまで安全に来れたことのお礼と、残り1日の無事を祈願をする。

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わたしは決して信心深いわけではない。ただ、神様ってやつはいつだって礼節を重んじる。礼を失する行動に対してはやたらと厳しい。だから引っ越しなどをしたときは真っ先に地元の神様に挨拶に行く。

ちなみにこの大國魂神社は武蔵国の神様が合祀されている総社だ。ここを参拝しておけば、武蔵国のすべての神社を参拝したことになるという。なんとも合理的というか手抜きなシステムが採用されたのは平安時代らしい。

気の遠くなるような昔の話だが、そのような神社が1000年以上の時を超え、いま目の前にある。信心深くないわたしでも手を合わせてしまう。

上石原宿、下石原宿を通過して調布に入る。ここはたった3㎞の間に5つもの宿場町がある。これは布田五宿と呼ばれ、5つの町が交替で宿場町の役割を果たしていたためだ。そもそも甲州街道は参勤交代でもほとんど使われない街道。

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信濃高遠藩、高島藩、飯田藩だけが甲州街道を利用し、その他の藩は中山道を利用している。当然インフラ整備も進まないから旅人も利用しない。甲州街道は取り残された街道。そう思うとここまでの道程も感慨深いものがある。

国領の宿場を越えたところで、大学時代からの友人が自転車で駆けつけてくれる。これでお供は2人。黄門様にでもなったような気分。もちろんそんな威厳もなければ地位もない。名もないただのランナーが甲州街道を駆けているだけのこと。

はっきり言うが、ここまで来ると見どころなんて何もない。まだ江戸に入っていないとはいえ、風景は間違いなく都会のもので、住宅やビルが途切れることなく建っている。

上高井戸宿を超えたあたりで、猛烈な空腹感が襲ってきた。朝ごはんはそれなりにしっかり食べたつもりだが、全然足りてないらしい。下高井戸宿の先、桜上水のコンビニでこの日2度目の朝ごはん。

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熱々のカレーライスを頬張ろうとしたところで、甲州街道の近くに住んでいるラン仲間が駆けつけてくれた。さらに1㎞くらい先では、別のラン仲間が合流。車の並走も合わせて、なんと5人ものサポートがいる。

1年前の日光街道は途中やゴールで仲間が待っててくれたが、ずっと1人で走っていたことを思うと、ちょっと不思議な感覚になる。facebookやtwitterでも応援してくれる人がいる。

これはわたし1人の挑戦だったのだが、いつの間にかそれを多くの人が支えてくれている。

自分一人で走りきれないかというと嘘になる。サポートがなくてもきっと同じように淡々と走っているだろう。でも、支えてくれる人がいることで、旅ランの密度はまったく違ったものになる。

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モノクロだった景色がカラフルになっていく感覚。

そして内藤新宿にたどり着く。江戸っ子であれば本来の旅はここで終わりだ。甲州街道を歩くからと言って、律儀に日本橋を起点にするような旅人はいない。内藤新宿からそれぞれ自分の家に向かっていく。

もちろんわたしは日本橋を目指す。

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そこはもう勝手知ったる江戸の町。ときどき雨が強くなってきたが気にすることはない。むしろ気にしなくてはいけないのは路地から飛び出してくる車。ちょっとした不注意でぶつけられたらたまったものではない。

ここまで200㎞以上の道がすべて無駄になる。江戸まで来たら焦る必要はない。

2017年8月14日12時45分 東京・日本橋到着

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スタートから84時間45分での甲州街道完走。甲州街道でレースをしている人たちにからすれば、鼻で笑うようなタイムだろう。209㎞という距離を4日間もかけて走る。ランナー以外の人からしてみると狂気の沙汰だろう。

いや、ランナーでさえも209㎞と言うと「そんなの絶対に無理」と言うのだろう。

だが、わたしは断言する。1日60㎞であれば、人間は毎日走ることができる。そこに才能はいらない。もちろん峠道などがあればどうしても進める距離は短くなる。気温が30℃を上回るような日でもそうだ。

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そういう特別な状況を除けば、1日60㎞を毎日というのは無謀な挑戦ではない。

わたしはフルマラソンでサブ3を達成していないし、100㎞のウルトラマラソンは制限時間ギリギリでゴールするくらいの走力しかない。ランニングに関しては天から何も才能を与えてもらっていない。

ただ1日60㎞なら毎日走ることができる。ヨーロッパから日本まで走ってきたランナーが口にしたその言葉を愚直に信じて、実行しているだけのこと。きっと誰だってできることで、ただ誰もやろうとはしないこと。

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やる前から無理だと決めつける生き方は大ケガをすることもないが、得るものも少ない。世の中はいつだって背負ったリスクと同じ大きさのものしか手に入れることができない。

では209㎞を走ってわたしは何を得たというのか。

きっとそれはもっと未来に分かるのだろう。今のわたしが語るべきことではない。しかも甲州街道完走は五街道制覇までの道の途中でしかない。ここで大喜びする理由はひとつもない。

わたしはまだ何も成し遂げていないのだから。

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だが、五街道制覇をしたところでその気持は変わらないのだろう。そしてまた気になったどこかの道を走り始める。この国にはまだまだ魅力的な道がいくつも残されている。

甲州街道を走り終えて、わたしの頭の中はすでに中山道で満たされている。約530㎞の長い道のり。わたしはいまそのスタート地点に立っている。


旅人よ どの街で死ぬか。 男の美眺
著者:伊集院 静
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