「ランニングタイツはランニングのタイム向上や疲労回復につながらない」という米国スポーツ医学会で発表された内容に衝撃を受けたランナーもおおいかもしれません。
いまどきは多くのランナーがランニングタイツを着用していますし、その機能性を信じていたのではないでしょうか。
ニュースとして取り上げられたことで、「ランニングタイツって効果ないんだよ」なんてことが、ランナー同士の間で交わされることが予想されますが、わたしの個人的な感覚としては、「本当に効果ないのか?」という疑問が残ります。
それ以上に気になるのが、このニュースを読んだ人の多くが、なんの疑問もなくこの結果を信じているということです。正直なところ、そのことについて「このままではいけない」という危機感があります。
わたしは基本的にランニングタイツを使いません。寒さ対策でふくらはぎや腕にカバーを付けることはありますが、レースや旅ランの後半になると、外してしまうことがよくあります。
マラソンを始まったばかりのころは、SKINSなどを購入していましたが、めんどくさがりな性格もあって、いつの間にか使わなくなってしまいました。ですので、基本的にはわたしはランニングタイツ不要派です。
そのうえで、今回の実験で「ほんとうに効果がないのか?」と感じているのは、被験者の数があまりにも少なすぎるためです。しかもベテランのランナーという偏りがあります。
筋肉の疲労度の計測方法というのも、垂直跳びの高さや、柔軟性の計測という方法でしたが、そもそも疲労というのはとても数値化しにくいもので、この計測方法で本当に測れるのかという疑問があります。
サプリなどでも、その評価が難しいのは効果の測定がとても難しいからです。今回は3種類のタイツを1日ごとに身につけて計測したということですが、実験は3日間です。人間の体は毎日コンディションが違います。
今日と同じ走り方を、必ず翌日できるわけではありません。3日間あれば、最初は不慣れだった動きも3日目には慣れることもあります。前日の疲労が翌日に影響を与えます。
たった3日の実験で、しかも17人の偏ったランナー。さらに使ったランニングタイツはナイキのものに限られています。これだけのことで、「すべてのランニングタイツに効果がない」なんてことは絶対に言えません。
例えば初心者は履いたらどうなるのでしょう?ランナーにはどれくらいの負荷がかけられたのでしょう。タイツがCW-Xだったら?SKINSだったら?
今回の実験で言えるのは、ランニングタイツが必ずしもタイム向上に繋がるわけではないということを証明したに過ぎません。ただ、研究が進めばどのような状況においても、ランニングタイツが役に立たないという結果がでるかもしれません。もちろんその反対の結果も。
今回の発表を行った米オハイオ州立大学のアジット・シャウドハリ准教授は、心理的な部分も含めてタイツの効果は他にもあるかもしれないと語っています。
実際問題として、タイツやサプリメントの効果の測定が難しいのは、心理的な面が大きく影響するためです。プラシーボ効果というのを聞いたことがあるかもしれません。
例えば何の効果もない錠剤を、お医者さんが「痛みに効くから」と言って飲ませると、実際に痛みを感じなくなることがあります。ランニングタイツも足にいいものだと信じれば、それなりの結果が出ます。
ここまで書いたものの、正直なところ、わたしはランニングタイツに効果があろうがなかろうがどっちでも構いません。わたしが言いたいのは、これくらいの研究結果に踊らされないで欲しいということです。
この発表を鵜呑みにするのは、バナナダイエットやチョコレートダイエットでダイエットできると信じているようなレベルの話です。反対に、メーカーの出しているランニングタイツの効果をそのまま鵜呑みにすることも同様です。
まず、わたしたち日本人は米国の学会で発表されたというだけで、すぐにそれを絶対的なものだと思いこんでしまうところがあります。アメリカ人が間違ったことをするわけがないという思い込み。
同じ研究結果を中国の准教授が出していたら、「本当に?」と疑ったと思いますが、米国という権威ならすぐに信じてしまいます。
しかも、今回は学会で発表されただけで、米国スポーツ医学会の公式見解というわけではありません。まだ、何もかも途中なのに、「ランニングタイツって効果ないんだよ」という会話につながってしまいます。
大事なことは自分の感覚です。
自分の感覚で、自分に必要だと思えば履けばいいのであって、自分に合わないと思えば履かなければいいただそれだけです。どこかの偉い先生が言っていたから履く、もしくは履かないというのはどうなのでしょう。
自分がランニングタイツを履かない理由を今回の発表に関連付ける必要はありませんし、これまでランニングタイツを履いてきた人が脱ぐ必要もありません。
今回はそういう結果が出たけれども、条件があまりにも狭いため、とても絶対的なものとは考えられません。
少なくとも情報発信を行う人は、それくらいの注意点も含めて伝えるべきなのですが、わたしの知る限り、そのような報道や、情報発信は見かけません。
こういうとこから、間違った常識のようなものが作られていくんだろうなという危機感がわたしにはあります。世の中には常識だと思われていたことがひっくり返る例がいくつもあります。
繰り返しますが、今回は「自分たちで行った実験では、ランニングタイツに効果を発揮しなかった」ということが学会で発表されただけです。実験内容を考えればそれくらいのことは誰だってわかるはずです。
それがなぜか「ランニングタイツには効果ない」というミスリードが起きています。
もっと自分の感覚を信じて、そして誰かの言うことを「本当にそうなの?」と疑問に思う気持ちを一人ひとりに持ってもらいたい。ランニングに限らず、あらゆる物事においてです。
誰かが面白くないといったから、映画を観に行かなかった。誰かが美味しくないと言ったから、気になっているお店に行かなかった。そういう生き方でいいのでしょうか?自分で感じて自分で考え、自分で決める。
そんな当たり前のことがすっぽり抜けている。そのことがとても気になります。
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