世の中にはフルマラソンという距離では満足できずに、さらに長い距離を走る人たちがいます。フルマラソンよりも長い距離のマラソンをウルトラマラソンといい、その距離を走るランナーはウルトラランナーと呼ばれています。そんな普通じゃない人たちの中でリビング・レジェンド(生ける伝説)とされているのが『EAT & RUN 〜100マイルを走る僕の旅〜』の著者であるスコット・ジュレクです。ウルトラランナー、ベアフット(裸足)ランナーのバイブルとも言える『BORN TO RUN』の登場人物のひとりなので名前だけは覚えている人もいるかもしれません。
そのスコット・ジュレクがどのようにしてウルトラランナーになり、そして伝説になっていったかが書かれているのが『EAT & RUN 〜100マイルを走る僕の旅〜』です。ただの自伝であればこのブログで紹介することもなかったのですが、読み終えてあまりの衝撃に、ひとりでも多くのランナーに手にしてもらいたくなったのです。いや、ランナーだけではありません。自分の限界に挑戦しているすべての人に読んでもらいたいのです。
『EAT & RUN 〜100マイルを走る僕の旅〜』の最大の着目点はタイトルにあるように『食』です。わたしの今年のテーマが『食』なのも、この本の影響によるものです。もしかしたら「菜食主義は素晴らしい」みたいな感じに受け取り、いきなり菜食主義を導入しようとする日本人が増えていくのが目に見えます。でもこの物語から伝わってくるのは『食』と『走』というテーマの陰に隠れた『学』ということだとわたしは感じています。
スコット・ジュレクが菜食主義者になったのは『学』の結果です。結果だけを真似てもわたしたちはスコット・ジュレクには慣れません。スコット・ジュレクは『学』の結果、食肉の体に与える影響がランナーにとってはマイナスにしかならないという答えにたどり着きました。『長生きしたけりゃ肉は食べるな 』のような、実際にそれを提唱している本も売られています。ところが逆に『肉を食べる人は長生きする』という本もあるのです(冗談のような話ですが、この両方の本が本屋の同じ本棚においてありました)。何が正しくて何が間違っているのか、自分で試し、判断することをスコット・ジュレクは繰り返してきたのです。
おそらくそれはランニングに対しても同じような姿勢なのでしょう。走りの理屈や理論には相反するものが数多くあります。ランニングの着地はつま先なのか踵なのかという論争は『BORN TO RUN』の発売以降、常に論争になっています。何が正しいかは、自分自身の体を使って確認していく必要があります。正確には「どちらが正しいか」ではなく、「どちらが自分にフィットするか」ということになりますが。これらは非常に面倒は作業です。多くのランナーは「速くなるためのマニュアル」を手にしようとしますが、そんなものは存在しません。自分にあった走法は自分自身で学び見つけるしかないのです。
学ぶことで速くなったスコット・ジュレクは足の骨が折れていても、捻挫で足首が倍に膨れ上がっていても100マイル(160km)という距離のレースで優勝します。その精神力は崇拝するに値するものではありますが、決して鋼のココロを持っているわけでもないことを『EAT & RUN 〜100マイルを走る僕の旅〜』の終盤で隠すことなく語っています。そして、自分自身の弱さをどのように克服していったのかをわたしたちに伝えてくれます。
そのストーリーのせいでしょうか、100マイルなんて絶対に無理だと思っていたのに、『EAT & RUN 〜100マイルを走る僕の旅〜』を読み終えたあと、絶対に走れるという考え方に変わっていました。もちろん、いますぐにというわけにはいきません。でも、スコット・ジュレクのように『学』を続け、『食』の改善と『走』を繰り返せば間違いなく、ウルトラランナーの世界に足を踏み入れることができます。24時間マラソンで160kmを超えた距離を走れたら、米国のレースに挑戦します。そしていつかどこかのトレイルでスコット・ジュレクと並走することを目標とします。
スコット・ジュレクの物語の合間合間に、コラムとしてランニング技術について書かれています。これだけでもランナーにとってはバイブルになりうる重要なことが書かれています。14のコラムはシンプルでありながらその内容は深いものがあります。このシンプルさこそがスコット・ジュレクの本質なのかもしれません。むやみに飾ることなく、不必要な物を削り落とされていてわかりやすく、とても参考になります。このコラムだけでサブ3を達成できる気持ちになれます。
もし、現状の自分に満足できず、それでも何をしていいのかわからないというような人がいれば、この本を手にしてみてください。なんらかの答えが見つかると思います。そしてもちろんウルトラランナーに限らず、今日走り始めたばかりという初心者ランナーにも読んでもらいたい。走るということは一体何なのか考えるきっかけになるはずです。
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