練習量を見極める

「走った距離は裏切らない」まったくもっての嘘である。それが正しいのであれば、トップランナーは毎月2000kmでも3000kmでも走るだろう。もちろんそんなランナーなどいない(もしかしたらいるかもしれないが)。だから正確にはこうだ「走った距離は裏切らない、ただし上限がある」。

上限は人によって違う。ランニングを始めたばかりでBMIが30あるような人は、1ヶ月に100kmも走れないだろうし走る必要もない。箱根駅伝出場を目指す学生ランナーは1ヶ月に1000km以上走ることもある。これが意外とやっかいなのだ。

誰も自分の上限を知らない。でも上限は必ずあって、UberEatsの配達をしているとよくわかるのだが上限を超えてがんばることはできる。自分の限界が1日55kmくらいの配達距離でも、1日70kmという配達を連日行うことはできる。ただし、疲労は蓄積していき思考能力も低下する。

ランニングでも同じで、適正な月間走行距離が300kmなのに、無理して500km走っても故障リスクが上がるだけで、成長にはつながらない。でも500km走れてしまう。そうなると自分の適正な走行距離というのが見えにくくなる。そこにきて「走った距離は裏切らない」という格言。

月間走行距離が100kmのランナーが200km走るようになれば、基本的には走力が上がる。これを否定するつもりはないが、これまで100kmだったランナーが、翌月から200km走るというのはやめておくべきだと思う。距離は無理なく伸ばしていくのが理想。ではどれくらいずつ伸ばせばいいのか。

それに対する正確な答えは持ち合わせていないが、筋力の付き方を考えれば、1ヶ月に10%ずつ伸ばすくらいがいいのではないかと思う。根拠はないが、これくらいゆっくりのペースで増やしていかないとオーバートレーニングになる。

走行距離が倍になるのに1年近くかかるじゃないかと思うかもしれないが、走力が上がるというのはそんなものだ。この世界には精神と時の部屋も仙豆もない。食べると能力者になる果実もない。ゆっくりと時間をかけて成長する以外に道はなく、焦った者は両手に汲んだ水をすべてこぼしてしまう。

練習で大事なのは距離だけではない。例えばインターバルトレーニングで1km×8本というメニューがあったとする。1kmをどれくらいのペースで走ればいいのかは個人差がある。何も考えずに全力に近いペースで走ると疲労が残って、次のポイント練習までに回復しきれなくなる可能性がある。

同じインターバルでも、その日のコンディションによっても違ってくる。15℃の気温で行うインターバルと30℃の気温で行うインターバルを同じペースでやると、疲労が大きくなるのは明らかに後者。ケガしやすいのももちろん後者だ。

ベストを尽くすことは大切なことだが、ベストを尽くすこととオールアウトすることは必ずしも同じ意味ではない。ランニングは点ではなく線なのだ。1回のトレーニングだけで考えてはいけない。すべてのトレーニングをつなげて目標を達成する。今日がんばったから明日のトレーニングの質が下がったのでは意味がない。

これはランニングだけに限ったことではない。UberEatsの配達にも、ライティングにも通じる。その日だけがんばっても長い期間で考えたときに、大したことではなかったりする。ライティングなどは頭がまわっていないのに無理に書き上げて、翌日に全消しする羽目に合うことが珍しくない。

UberEatsの配達だって欲を出して「もう1件」なんてやっていると疲労が抜けなくなる。翌日に寝込んでしまったら意味がないのだ。引き際を意識していない配達員は、おそらく配達の仕事を長く続けることはできない。どこかで体か心を壊してしまう。

長い時間配達できるようになりたければ、ランニングと同じで徐々に稼働時間を伸ばすしかない。それでも気温が高い日は短めにするなどの臨機応変な対応も必要になる。気合と根性だけでなんとかなる世界ではない。圧倒的な精神力を備えているなら話は別だが。

SNSというのも厄介な存在だ。自分の努力の過程をアップして「いいね」をもらう。そこに気持ち良さを感じたら、それはもう危険信号が点滅していると思ったほうがいい。努力は誰かに評価してもらうものではない。淡々と必要なことを必要なだけ積み重ねていくだけ。

ランナーにとって大事なのは自分にとっての最適なトレーニングの量と質を見極めることで、「いいね」の数ではない。別にわたしが「いいね」をもらえないから僻んでいるわけではなく、本当に大切なことだから書いておいた。もちろん「いいね」をもらえれば嬉しい。ただ、あってもなくても何も変わりはしない。

努力の形は人それぞれで、何でモチベーションが上がるのかも人によって違う。ただ何をするにしても外部に依存しないことだ。自分でちょうどいい練習量を見極める。自分でちょうどいい仕事量を見極める。壊れてしまったら意味がないのだ。破滅的に生きたいのであれば止めはしないが。

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