裸足の河童「激坂最速王決定戦 2020@箱根ターンパイク」奮闘記

本当はランニングシューズを履いて走るつもりだった。そのために追い込んだトレーニングをしてきたし、10日前には21kmの坂道トレーニングを積んでいる。むしろ裸足トレーニングは公園でのリカバリージョグだけ。だがスタートラインに立ったのは裸足の河童。

決めたのは前日の起床時。追い込んだトレーニングによって左膝に違和感があり、ランニングシューズを履いて13.5kmの下りを走ったら、間違いなく故障するということから、靴を脱いで走ることを決意した。言うまでもないがシューズの構造が悪いとかそういうことではなく、避けたのはスピードを出しすぎての故障リスクだ。

いまさらランニングシューズを履いたことが原因で故障などしない。わたしはどんなシューズでも履きこなす裸足ランナーだ。ただマラソン大会となると気持ちが高ぶってしまい、自分をコントロールできなくなる可能性がある。その芽をあらかじめ摘んでおいたわけだ。

裸足ならきっと優しく下るはずだと。その考え方は半分正解だったが、半分は想定外だった。ゆっくりと走ったのではなく、ゆっくりと走るしかなかった。今日はそんな激坂最速王決定戦 2020@箱根ターンパイクについて語らせてもらうとしよう。

目次

浮ついたマラソン大会会場の雰囲気

今回はランニングを教えている生徒さんとの参加。8時44分小田原発の電車に乗るという待ち合わせだったが、わたしが乗った小田急線が小田原駅についたのが8時44分。まさかここで、この日の最高速度を記録することになるとは思いもしなかった。

目の前に停まっている箱根登山鉄道に飛び乗り、箱根板橋駅で無事合流。いま思えば久しぶりのマラソン大会で、どこか地に足がつかない状態になっていたのだろう。裸足で走ると決めたから気分は楽だったのだが、気持ちは浮ついていて、それでいて本当に27kmを走れるのか不安だったのもある。

おそらく激坂最速王決定戦 2020@箱根ターンパイクに参加する多くのランナーがそうだったのだろう。マラソン会場となっている早川小学校の空気感そのものが浮ついている。別に悪いことではない。それだけみんなが楽しみにしていたということだ。

どのランナーも速そうに見えるが、残念ながら真っ向勝負ができない。会場に着いて裸足で走ることをやや後悔したが、ここでケガをしたら年末年始の東西対抗東海道53次に悪い影響を与えてしまう。主催者としてそれだけはなんとしてでも避けなくてはいけない。

念の為にと持ってきたペガサスターボをリュックの奥深くにしまい、着替えを済ませて自分の出番を待つ。アップなどしない。本気で走るなら心拍数を上げておきたいところだが、気温も十分に高く、走り出してからほぐしても十分に間に合う。

ありがたいことに、いろいろな人から声をかけてもらえる。そのたびにマラソン大会に戻ってきたんだと実感する。

往路:荒れた路面と最高の景色

第1ウェーブのスタートは10時ちょうど。わたしはエントリーが遅かったのもあって10時45分スタート。想定としては、得意の上りで順位を稼いでおき、下りで抜かれていくつもりだったのだが、スタートエリアに入って気づいてしまった。

その道、凶暴につき

めちゃくちゃ荒れていて、正直なところスタートする前から後悔していた。箱根ターンパイクは有料道路なのだが、実は私道扱いになっている。管理会社の持ち物なので十分な収益がないと路面の手入れもできない。だが箱根路は箱根新道が無料化され、あえて箱根ターンパイクを使う人が少ない。

神奈川県民でも箱根ターンパイクの入口がどこにあるのか知っている人は、ほんのひと握りかもしれない。路面の凍結対策というのもあるのだろう。あえて荒くしておくことでグリップ力を高める。こちらにしてみればありがた迷惑な話だが、裸足ランナーのために整備などしてくれるわけがない。

これまで鹿児島マラソンが最凶路面だったが、思わぬところでランキングが覆った。スタート直後からセンターラインを走るのだが、そのセンターラインすら痛みを感じる。もっとも裸足練習を怠っていた自分が悪いのだが。痛みは感情だが、同時に慣れでもある。本来ならある程度慣れておく必要がある。

それでも上りは得意だし、心肺機能を追い込むトレーニングもしていたので、比較的気持ちよく上れている。だが、上りながらも下りのことを考えると憂鬱にしかならない。そんな落ち込んだ気分を盛り上げてくれたのは、箱根ターンパイクからの景色。

遠くは江ノ島、三浦半島まで見渡すことができ、ところどころで富士山も顔を出してくれる。空は青く最高のマラソン日和。最高気温は20℃の予報でやや高いが、高度が上がれば上がるほど涼しくなって快適になる。折り返し地点までくると寒さを感じるほど。そうなると足裏がさらに敏感になる。

折り返し地点通過タイムは1時間46分57秒。普通に考えれば3時間以内でのゴールが見えている。だが行きはよいよい帰りは怖いが裸足のセオリー。覚悟を決めて下っていく。

声援もらい率No.1の河童

激坂最速王決定戦 2020@箱根ターンパイクは片道13.5kmで981mを駆け上がる。スタートから10km過ぎまでは上りなのだが、そこからは緩やかにアップダウンが続く。すべての路面が荒いというわけではなく、最初の5kmが絶望的で、あとは部分的に路面が荒いゾーンが続く。

そうなってくると下りの残り5kmはまともに走ることができない。だが、そんな先のことを考える余裕などまったくない。路面が整っているエリアでも、上りで追い抜いたランナーに次々と抜かれていく。シューズランナーは下りになったところで水を得た魚。わたしは皿が干からびた河童。

下り始めて1kmもいかないうちに、後ろのブロックからスタートした生徒さんとすれ違う。10分差だとして、これは下りで追いつかれるのは時間の問題。生徒に抜かれる先生。優等生を指導する学校の先生はこういう気持ちなんだろうなと、変なところで感心しながら下っていく。

だが路面が荒くなると一気にペースが落ちる。わたしは上りも下りもあるピストンの部にエントリーしたが、その後から下りなしの上りの部がスタートし、ちょうどピストンの部とすれ違うようになっている。荒い路面を踏むたびに悲鳴を上げる河童に声援を送ってくれる。

「痛くないのですか?」と聞かれることもあるが、痛いに決まっている。「痛くないわけないじゃないですか」と逆ギレ気味に答え、笑いを誘うのが精一杯。だが、みんな応援してくれるわけだ。よっぽどひどい走り方と表情だったのだろう。自分でもわかっている。あれはダメだ。

そうは言うものの、こうやって他のランナーと交流できるのも裸足ランナーの特権だ。この大会で1番多く声援をもらった自信がある。これがあるから裸足はやめられない。そして、マラソンはこんなにも楽しいのだと思い出すきっかけにもなった。

箱根ターンパイクという閉ざされた空間だから、途中で沿道から声援をもらうことができない環境でも、選手同士で交流し合えば気持ちが高ぶる。1日でも早く正常な状態でマラソン大会を開催できるようになってほしい。心からそう思う。

そんな感傷的になりつつもペースは上がらず、21km地点で生徒に抜かされてしまった。そこからはどんどんと周りに人がいなくなり、ウォーキングの部とすれ違ってからはほぼ単独走。ここはもう完全に想定外だ。いくら遅いとはいえ、5時間制限に対して3時間30分でゴールできそうなのに、ほぼ最後尾。

余力を十分に残しての残念なゴール

足裏が痛いからペースを落としているのだが、筋力も心肺機能もまだまだ余裕がある。可能な限り柔らかい着地と、体が硬直しないように全体的に緩めながら走ったというのもあって、体力や関節への負担はかなり少ない。痛みを回避しようと必要以上に足首に力が入っていたが、そこ以外はまったくの正常。

もったいないなと思うものの、自分がそれを選んだのだから仕方ない。さすがにここまでダメダメの走りになると、不甲斐なさすら感じない。淡々と1kmを積み重ねて次第にゴールへと近づいていく。ラストスパートをすることもなく、修行僧のように黙々と進む。

ゴール前には福島和可菜さんと福島舞さんの姉妹が帰ってくる選手を出迎えてくれるのだが「すごい裸足!しかもカメラ持ってる」とアナウンスしてくれたのだが、オールアウトしていないので同じテンションに持っていくことができず、軽くスルーしたような状態になってしまった。わたしの悪いクセのひとつ。

まったく余談だが、マラソン大会の女性ゲストランナーは、なぜメイクがあんなにも濃くなるのだろうか。福島姉妹に限ったことではなく……他のゲストランナーを見ていつも不思議に思う。もっとナチュラルなほうが、ランナーにはウケると思うのだが(個人の見解)。

ゲストランナーになるような人がこれを読むとは思えないが、ずっと気になっていたことなのでちょっと書いてみた。

フィニッシュタイムは3時間27分30秒。981mも下ってきたのに6分30秒しか速くないとう奇跡。下手したら上りのほうが速かったとなりかねない結果。だが、わたしはケガなく帰ってこれたことで満足している。何よりも久しぶりに大勢で一緒に走れたということが嬉しくて仕方ない。

やはりここが自分の居場所だと思う。

マラソンがあるからわたしは存在している。マラソンに出会わなければ、きっとまだどこにでもいるうだつの上がらないサラリーマン生活を送っていただろう。刺激ある毎日に誘い込んでくれたマラソンに感謝している。そして今のマラソン業界の危機的な状況に、わたしにできることをしなくてはと強く思い始めている。

恩返しというほどではないが、マラソンを盛り上げるためにベストを尽くす。それもこれまで以上に必死になってやろうと思う。きっとこれから4月までがマラソン業界の正念場。激坂最速王決定戦 2020@箱根ターンパイク以外の大会にも出場し、マラソンの楽しさを伝えていければと思う。

レースは不甲斐ない結果だったが、東西対抗東海道53次ウルトラマラソンへの目処はたった。おそらく250kmは走れるだろう。ここからしっかりと仕上げて、良い結果につなげるとしよう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次