引き返す勇気【中国の100キロマラソンで出場者21人が死亡したことから学ぶこと】

マラソンで1番大切なことは「無事戻ってくること」です。これは5kmのレースでも100マイルレースでも同じです。命をかけて完走しなくてはいけないレースなど、トップアスリートのレベルでも存在しません。例えそれがオリンピックや世界選手権であってもです。

マラソンの起源ともなったマラトンの戦いで、勝利を告げるために走った兵士は勝利を告げたあとに息絶えたそうですが、そんなところまでリスペクトする必要はありません。私たちランナーにとって最も大事なのは無事に戻ってくること。優勝するよりも完走するよりも大事なことです。

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日本のトレランなら同じことは起きにくい

今回、問題が発生したのは、黄河石林で開催された距離100キロを走破するウルトラマラソン大会です。参加資格は1年以内に50kmのウルトラマラソン完走歴があることですが、中国では比較的難易度の低いレースとして知られていたそうです。ただ「クロスカントリー」としている記事もあるので、トレランに近い大会だったのかもしれません。

コースの難易度は低く、風雨の予報はあったものの気にするほどのものではなかったそうで、ところがスタートしてから3時間、山岳地帯をひょうや激しい雨が襲い、さらには強い風もあって選手の多くが低体温症になってしまったということ。雨の予報にもかかわらず半袖短パンの選手もいたのだとか。

これが日本でも同じように起こるかというと、「まず起きないだろう」というのが私の感覚です。なぜなら100kmのトレランなら雨具を持って走ることがレギュレーションで決められており、バックパックの中身もチェックされます。レースによってはエマージェンシーシートも必要になっているはずです。

要するに「山は何が起こるかわからないから、自分のことを自分で守れ」というスタイルが定着しているのです。もしかしたら違反している人もいるかもしれませんが、基本的には寒さで低体温症になるということは、雪でも降り積もらない限り考えられません。そして運営もしっかりしていて、UTMFが雪で中止になったのを覚えている人もいるはずです。

ウルトラマラソンで低体温症になるケースは多い

トレランの大会なら装備が必須なので、いざというときに自分の体を守ることができますが、これがフルマラソンやウルトラマラソンとなると少し話が変わってきます。フルマラソンはサポート隊が自転車などで見回っていますし、救護所も用意されていますのでトラブル発生時に素早いフォローを受けられますが、ウルトラマラソンとなるとそうはいきません。

ウルトラマラソンの多くが比較的暖かい季節に開催されていますが、だからといって低体温症にならないとは限りません。地域によっては冷たい雨になることもあり、レース中に雨が降ったら低体温症になって動けなくなる可能性は十分にあります。ウルトラマラソンの場合は必須装備に雨具がないので余計にリスクが高くなります。

ところがランナーは低体温症を軽く考えているところがあります。低体温症になってもがまんしていれば治るみたいに思っているかもしれませんが、極度の低体温症が続くと心臓が止まります。人間の体はそのように出来ているので、すぐに対処しないと中国のレースのように死者が出ることもあります。

それを避けるには「体を冷やさない」ことしかありません。体を冷やさない方法は簡単です。暖かい格好をして走ることだけです。もしくは雨具を常に携帯しておくことです。天気予報がどうであれ、いざというときに自分の身を自分で守るために雨具やエマージェンシーシートは持っておくべきです。

危険を感じたら引き返す勇気を持つ

低体温症を防ぐために装備をしっかり用意するのと同じくらい、いやそれ以上に重要なことがあります。危険を感じたらすぐにレースを放棄して戻ることです。これはレースだけではなくトレーニングでも同じです。山の天気が荒れそうだと感じたら、目的地が目の前であっても引き返す。

今回の件で、山岳地帯に入る前にホテルに戻ったという参加者もいます。過去に低体温症になったことがあり、その経験から危ないと感じたそうですが、この感覚を持てるかどうか。何事もなくレースが進めば、引き返したことを「弱い」と言われてしまう可能性もあります。

でもそんな声は気にせずに、自分の本能にしたがって、立ち止まり放棄することが重要であることが、今回の件ではっきりしました。大事なのは無事に戻ってくることです。マラソンの世界においてDNF(リタイア)は「失敗」を意味しますが、実際には生きて戻ってきたなら、それは「成功」であり正しい判断なのです。

どんな些細な危険であっても、気になったらそこで引き返す。これはかなり勇気のいることです。リタイアが癖になる可能性もあります。それでもはっきりと言います。十分な装備がないような状態で、危険に立ち向かうのは勇敢ではなく無謀であり、1ミリも褒められることではありません。

レースを降りることは恥ずかしいことではありません。むしろ危険とわかっていて降りるのを躊躇して、自らを危険に晒すことのほうがよっぽど恥ずかしいことです。同じようなことを繰り返さないためにも、自分できちんと線引できるランナーを目指しましょう。

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