訪問日:2007年8月17日
ここは自分にとって特別な場所だなという感覚は言葉にしづらいのですが、疑う必要もないぐらい確実にあります。伊豆の桂大師や太郎杉なんかは、はじめて訪れたときの感覚をいまでも覚えています。神様も仏様も信じていませんが、神聖な場所というのはわかりますし、八百万の神というものはいてもおかしくはないかなと思うのです。八百万の神と宗教的な神様との違いはいまいちわかりませんが、崇める対象としての神様がキリストだったりするのに対して、八百万の神は寄り添うものという感覚でしょうか。白州の尾白川も八百万の神を感じられる場所のひとつです。
そもそもは石田ゆり子さんの責任編集で2004年に出版された「C’est joli(セ・ジョリ)」で紹介されていた場所でした。当時(いまも?)石田ゆり子さんが大好きだったので、彼女が通うその場所に行ってみたい。あわよくば本人に出会えるのではないだろうかという不純な動機で友人を巻き込んでの訪問でした。
尾白川渓谷に到着したら、そんな不純な気持ちはどこかへと吹っ飛んでしまいました。強烈な緑色の木々とどこまでも透明な渓谷の流れ、そこに流れる風は都会では絶対に感じることのできない柔らかなものでした。もしひとりで訪れていたら、何時間もそこに留まっていたに違いありません。神の中にいる、もしくは神に囲まれているかのような感覚になります。足の先から頭の先までゆっくりと浄化されていきます。
その日は結局日帰りだったのですが、翌年以降山梨への桃狩りと尾白川渓谷でのキャンプをセットにして度々訪れることになりました。この数年は、仲間の都合が合わずに訪れていないのですが、ならばソロキャンプをしてみようかと考えています。白州観光尾白キャンプ場を拠点に駒ケ岳へのトレイルを駆け抜けるのも面白そうです。山から戻って、川の水で汗を流して、焚き火で体を温める。最低限のものしかないキャンプ場なので、人も少ない。ゆっくりとした時間の中で自分と向き合うには最適です。
このキャンプ場から上流を目指すといくつかの滝があります。夏は千ヶ淵の周りで遊んでいる子どもたちがいます。ただ、水温が劇的に低いため、それほど長い時間水の中にいることができません。少し高いところから飛び込んですぐに日なたで体を乾かすということを唇が真っ青になるまで繰り返すのです。もちろん、大人も童心に戻って飛び込みます。なぜでしょう、どんな悩みごとがあっても、飛び込みを繰り返すうちに悩みなんてどうでもよくなります。
もしわたしの周りに悩みを抱えている人や疲れてしまった人がいれば、ここに連れてきてあげたい。そして言葉をかわす代わりに、パーコレータで淹れたコーヒーを手にただ同じ空間に身をおいておこう。わたしが何もしなくても悩み事は山の神がなんとかしてくれる。ここはそういう場所なのだ。わたしの訪れたことのある名水百選の中で最も自然に近い存在で、その一部をわたしたち人間が使わせてもらっている。そんな気持ちになれる場所です。
所在地:山梨県北杜市白州町白須
アクセス:中央自動車道須玉ICから約30分
環境庁選定名水百選:白州・尾白川
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