訪問日:2007年4月29日
名水百選と言っても、すべてがすべて素晴らしい名水ばかりとはかぎりません。自治体の管理に問題がある場合もあれば、水脈が変わったことによって水そのものがほとんどない名水もあるのです。その代表的とも言えるのが徳島の「江川の湧水」です。本流である吉野川の水量が減少したことで、以前ほど湧き出すことはなくなったと地元の人が残念そうにしていていました。この江川の湧水、夏季は10℃まで下がり、冬季は20℃に上がる異常水温と呼ばれる現象が発生するそうです。
江川の湧水へは吉野川遊園地の隣に位置します。お遍路の途中であれば第10番札所切幡寺から第11番札所藤井寺に向かう途中に少し寄り道をすれば湧水を見ることができます。吉野川を渡ったあと、河川敷を観覧車を目標に下流へ進めばたどり着けます。
ただ、お遍路途中にまで来るべき場所かと聞かれると返答に困ります。目的が湧水ではなく休憩だとすればここは素晴らしい場所です。屋根のついた休憩所もありますし、新しいトイレもあります。おそらくお遍路さんの野宿場所として利用されているのだと思います。よくわからないアート的なものもたくさんあります。地元の人に大切にされている場所だというのは伝わってきます。
ただ、肝心の名水ががっかりすぎます。ほとんど湧水が見られないばかりか、その湧水ポイントもなんと遊園地の敷地内。なんとジェットコースターの下にあるのです。ここまでくるともはや笑うしかありません。地元の人が言うように以前はもっといたるところで湧水が見られたのでしょう。吉野川市が一生懸命公園を整備しても湧水が戻ってこなければこれではただの公園です。ちなみにジェットコースターはいまは赤色に塗り替えられています。
でも、こういう場所もきちんと見ておく必要があります。江川の湧水は時代とともに水脈が変わってしまったことでこれまでの存在感を持ち続けられなくなったのです。栄枯盛衰ではありませんが、いつまでも変わらないものなんてどこにもないということを示してくれています。美しい花もいつか枯れるからこそ美しいのです。いくらうまく作っても造花にはほんとうの美しさはありません。
かつて美しかったもの、美しさを失ってしまったものもやはり美しいとわたしは思うのです。それは人間も同じことで、若さだけが美しさではありません。年齢を重ねたことで湧き出してくる魅力というものがあります。人の魅力というのはどれだけそういうものを持っているか、感じさせられるかいうことだと思うのです。見た目の美しさを否定するつもりはありませんが、それだけに惑わされない感覚というのも大切です。
名水百選という意味では確かにがっかりしましたが、お遍路の途中にしっかり休めました。あまりに居心地が良すぎて、その日の夜、大変な目にあったのですが、その話はまたいずれ。お遍路をはじめたかなり初期に行ったところなので、いま行くとまた違った感覚になるかもしれません。江川の湧水はいつの日か再訪できるのをひそかに楽しみにしている場所でもあります。徐々に涸れ行く湧水の姿をこの目でしっかりと確認してみようと思います。
所在地:徳島県吉野川市鴨島町
アクセス:JR徳島線「西麻植駅」徒歩5分
環境庁選定名水百選:江川の湧水
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