自律神経が心拍数を上げたり発汗に影響を与えたりするという話を前回しましたが、ランナーなら、自分の走りは自律神経の影響を受けているのではないかと考えますよね。ランナーにとって心拍数や発汗はとても重要な要素になりますから。
走っても体温上昇を抑えられる。血流を最適化して体の隅々にまで酸素を送り届ける。これらを滞りなく行うことができるのは自律神経があってのことで、ということは自律神経のバランスが悪いときには、ランニングのタイムが落ちるということが容易に想定できます。
もちろん、これはランニングに限ったことではなく、すべてのスポーツに於いて、自律神経のバランスというのは重視されるべきポイントになるはずなのですが、いろいろ調べようとしても思ったような論文が見つかりません。出所不明な推測ばかりでして……
そこで、わたしなりに自律神経とランニングがどのような関係にあるのか、考えていこうかと思います。
ランニング中の負荷によって自律神経に与える影響が違う
自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があると、前回お伝えしました。この2つの神経がわたしたちの意思とは関係なく、勝手に強くなったり弱くなったりして、バランスをとりながら変化に適応していくよう人間の体はつくられています。
そして運動をするときには交感神経が優位にあり、寝ているときには副交感神経が優位にあり、副交感神経が優位になるとリラックスした状態になるというのもお話したとおりです。
それではランニングをしているときには、交感神経と副交感神経のどちらが優位になっているか。答えを言うまでもないかもしれませんが、ランニング中は交感神経が優位な状態にあります。走ることで心拍数が上がりますし、汗もかきます。
ただ完全に交感神経優位になるかというとそうでもなく、ゆっくりとしたジョグの場合には負荷の少ない有酸素運動になり、しっかりとした呼吸を促すことになるので副交感神経も高めることができるため、自律神経のバランスが整った状態になります。交感神経も副交感神経も高まる良い例ですね。
運動は体に疲労感を与えますので、睡眠の質を上げる効果も期待できます。その結果、自律神経のバランスが整いやすくなるというメリットもあります。
要するに、適切な負荷のランニングで抑えておけば、心身ともに良い状態を維持できます。反対に過度なトレーニングを行って交感神経だけが活発になると、自律神経のバランスが崩れて、体や心に悪い症状を引き起こします。
交感神経優位が続くと免疫力が下がる
新型コロナウイルスが広まったときに、ランニングは免疫力が上がるので継続したほうがいいという話をしました。ただし、負荷の高いトレーニングは免疫力を下げるので避けたほうがいいという話もしています。実はこれも自律神経が影響しています(自律神経だけではありませんが)。
免疫力というのは血液中の白血球の働きによって決まります。白血球は次の3種類に分類されます。
- リンパ球
- マクロファージ
- 顆粒球
リンパ球は細菌やウイルスなどの病原体に感染した細胞を攻撃します。マクロファージは死んだ細胞や体内に発生した変性物質、侵入した細菌などの異物を食べます。このようにリンパ球とマクロファージは最近やウイルスなどを攻撃して退治する役割があります。抗体を作るのもリンパ球の役割のひとつです。
顆粒球も細菌を攻撃しますが、このときに活性酸素を使って細菌を攻撃します。問題はこの活性酸素で、あまりにも過剰に生成されすぎると、体内にネガティブな影響を与えます。もっとも有名なのは老化の促進です。そして悩ましいことに活性酸素が増えすぎるとリンパ球の働きが抑制されます。
良かれと思って顆粒球が頑張ったことで、トータルの免疫力が下がってしまうわけです。ではどんなときに顆粒球が活発になるかというと、それが交感神経優位の状態だとされています。少し複雑になったのでわかりやすく順を追って説明します。
- 負荷の高いトレーニングを行う
- 自律神経が交感神経優位になる
- 顆粒球が活発になる
- 活性酸素が増えすぎる
- リンパ球の働きが弱くなる
- 免疫力が下がる
これが、高負荷のトレーニングで免疫力が下がる流れです。きちんと理屈で分かれば、こんなタイミングで負荷の高いトレーニングをしようと思う人は減ってくれるような気がします。もちろん免疫力が下がるのは平時でも同じです。
人間の体の仕組みとして高負荷トレーニングで免疫力が下がるので、新型コロナウイルスに関係なく、インターバルやロング走などのポイント練習をしたあとには、上記の流れで誰でも免疫力が下がるので注意が必要です。
副交感神経優位であるほうがレースで結果が出る
箱根駅伝に出場した東海大学の選手に対して、レース直前に自律神経の状態を調べた論文が公開されています。結論からいえば、副交感神経優位の状態でレース前の14日間(調整期)を過ごせた選手ほど箱根駅伝本番で自分の力を発揮できているという結果になっています。
対象となっているのが5人しかおらず、あまりにも母数が少ないのであまり重要視されていないのかもしれませんが、これはマラソンのコンディショニングにおいて、かなり有効な結果ではないかとわたしは考えています。
コンディショニングというと、レースに向けて疲労を残さないように、でも心身が緩まないように行うものという印象がありますが、それだけでなく、自律神経が副交感神経優位で安定した状態にあることも大事ということが、論文には書かれています。
どうすれば副交感神経が優位になるかというのは別の機会のテーマにしますが、シンプルに自律神経の状態がマラソンの結果に影響するという実験結果が出ていますので、これを軽視することはできません。
私もこれまで、何度もベストコンディションで挑んたつもりのレースで失敗しているのですが、いま思えば気持ちが入りすぎて自律神経のバランスが崩れていたのではないかと思うこともあります。副交感神経を優位にすることが重要だと知っていれば、レース前の準備期間の過ごし方がまったく変わってきたはずです。
自律神経と心身につながりがある以上、ランニングと自律神経は深い関係があるのは明らかで、自律神経が乱れていると自分のポテンシャルを発揮できなくなる。これの考え方で間違いないと思って入るのですが、論理建てて説明している人が少なく、どうも自分で開拓していかなくてはいけなさそうです。
もちろん、自分のポテンシャルを高めるトレーニングも必要です。それを100%発揮するための準備も必要だというお話です。
まとめ
これまで軽視してきた自律神経ですが、調べれば調べるほど知っておくべき情報がどんどん出てきます。ただ、それを語る人があまりにも少ない。見事にブルーオーシャンになっているような感じもあります。ランニングトレーナーもメンタルを語る人はいても、自律神経を語る人はごくわずかです。
でも間違いなくレースの結果に直結する問題であり、そして自分のコンディションづくりに影響する話です。ただし自律神経をコントロールできればということが前提になります。自分の意思でコントロールできないから「自律神経」なので、これをどこまでコントロールできるのか。
それが次の課題になります。まずは現時点でどこまでコントロールできるのかについて調べていこうと思います。調べるのに時間がかかるので、明日はまったく別のことを書く予定ですが、暇つぶしのネタとして楽しみにしておいて貰えればと思います。
※お医者さんが読むと「説明が荒すぎる」と怒られそうですが、大筋は外れていないかと思いますので、そのあたりは目をつぶっていただければと。