映画「茜色に焼かれる」【最悪の人生を終わらせるタイミングとコロナ禍を生きる意味】

悪いことが次々と起こる人生を神様から与えられたとして、もし自分の命がそれほど長くないと知ったら、人はどのタイミングで死を選ぶだろうか。映画「茜色に焼かれる」を観て最初に思ったこと。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、私は「絶望を感じたとき」がその答えだと思っていました。でも、違う答えを示されたような気がします。

最悪な人生を送ってきたなら、最高の思い出ができたときに「ここで終わらせよう」となるのではないか。満たされた気持ちを、他の悪いことで上書きされないうちに終わらせる。そういう考え方もあるのかもしれません。私自身は恵まれた人生を送っているので、きっと一生かけても正解は分からないのかもしれませんが。

「茜色に焼かれる」を観に行ったのは、半日ほど予定がぽっかりと空いたから。映画の日は観たい他の映画があったし、たまには正規料金を払って映画界に貢献するのも悪くないかなと。でも、いま映画って1,900円もするんですね。これにドリンクやフードとかつけてたら、遊園地で1日遊ぶくらいの出費。せめて、ドリンクやフードの価格を適正にしないと映画館に人が戻ってきません。

それはともかく「茜色に焼かれる」。こういうタイプの映画は初めてかもしれません(なぜか内容もほとんど覚えていない「ショーシャンクの空に」が思い浮かびましたが)。母子家庭の親子を物語の中心に置き、コロナ禍における社会問題をこれでもかと詰め込んだ朝日新聞らしい内容です。でも社会問題を並べてはいるものの、それに対する答えは提示していないので、しつこい感じもなく、観ていて胸が苦しくなるようなことはありません。

ただ、観る人によってひとつは刺さるストーリーがあるはずです。私に刺さったのは、主人公である田中良子の同僚であるケイの物語。生まれつき糖尿病で、定期的にインスリンを打たなくてはいけない女の子。この子の人生には「信じられない」ような悪いことが次々と起きるわけです。実際にそういう人がいるのでしょう。良いことなんてひとつもないような最悪の人生。

それでも必死に生きている。客に見下されながら、それでも逃げずに風俗で働く。働き方は違うけど、私も周りから見れば似たようなもんなんでしょう。1配達数百円で、お弁当を運ぶ仕事は社会における底辺と蔑まれることもあります。この仕事にプライドなんてないけど、馬鹿にされることはやっぱり腹は立ちます。幸運なことに直接そういう言葉をかけられたことはありませんが。

ただ必死に生きてるのは同じ。必死の形は違いますが。短距離走者のように瞬間的に命を燃やすのではなく、マラソンランナーのようにゆっくりと命を燃やしているので、私はのらりくらり生きているように見られがちですが、とにかく生きようとしています。だから時々死ぬときのことを考えます。まぁそんな年齢ですからね。あと数年もすれば、同級生が1人ずつ減っていきます。

どうやって人生を終わらせるか。これは少し前から私に与えられた課題のひとつになっています。北方謙三さんの岳飛伝で、物語の重要人物である王進の死に方が私の理想ですが、自分の思い描いた死に方をできる人など、ほとんどいません。だからといって、考えなくてもいいという訳でもありません。少なくとも私にとっては。

話を最初に戻します。最悪な人生で余命が長くないとわかっていふるなら、最高の出来事があったときに死ぬとします。では、私のように最高とは言わないまでも、勝手気ままに生きてきて、大して不満もないような生き方をしている人間は、いつがそのタイミングなのでしょう。その答えはまだ見つかっていません。見つかったところで、そこで終われるわけでもありませんし。

ある日突然、アクセルとブレーキを踏み間違え車に轢かれて終わることもあるでしょう。もしかしたら、ここから人生の大逆転を起こし、大勢の人たちに見送られながら人生を全うするかもしれません。ただ、アクセルとブレーキを踏み間違えて、罪の意識を背負いながら……という可能性もあります。誰もが「茜色に焼かれる」の登場人物の1人になる可能性があるんです。

そうならないために、必死になって今の地位に留まろうとする人も、ちょっとしたボタンの掛け違いで田中良子やケイのように、生きるために望まない仕事を選ぶ人生が待っているかもしれません。でも、やっぱり何とかして生きてもらいたい。生きなきゃダメだと思うんです。なんだろう、理屈ではなく感情的な想いとして。人生の終わらせ方を考えている私に、それを口にする権利はないのかもしれませんが。

いい映画だったと思います。コロナ禍において少し霧がかかってモヤモヤしていたものが明確になり、少し顔を上げようという気持ちになりましたし。ただ、みんなが見ないようにしているもの、見なかったことにしているものが顕になっているので、人によっては観るのが苦しいかもしれません。ただ何を感じるにしても、人生において観ておいた方がいい1本なのは間違いありません。

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