アルプス技研時代のことですが、新入社員の研修をするときに、それをサポートする人たちが「成功体験をさせなくてはいけない」と言っているのを聞いて、ここは自分の居場所ではないと悟ったことを思い出しました。
成功体験をさせるためにハードルを下げるというニュアンスのことを言っていて、この人たちは正気なのだろうかと思ったのですが、みんながそれを本気で信じているようだったので、不要な争いを避けるためにあえて何も言いませんでした。
高いハードルを超えられるようにサポートするならまだわかるのですが、そうではなくハードルを下げて得られた成功体験に何の価値もありません。苦労して、自分の能力の限界付近で成功を掴むから成功体験には意味があります。
そして、成功体験をした次の瞬間には成功体験を手放す必要があります。なぜなら、それはもう超えられるハードルであり、飛び越えたらもう目標ではなくなるからです。ひとつのハードルを超えたら、次はもうひとつ高いハードルを目指す。
でも、この考え方に同意してくれる人は限られていて、ほとんどの人は成功体験にしがみつきながら生きていきます。だから「前にこうやったら上手くいったから」と前例をとても大切にします。でも、その方法だと次第点以上を取ることはできません。
25点が赤点のボーダーラインだとしましょう。前例を大切にする人は、いつまでも25点を超える結果で満足します。25点以上になったやり方を踏襲するわけです。そうすれば絶対に25点以下になることがないというリスク管理ですね。
でも、やり方を変えれば50点や100点を目指せます。ただし、かつてのやり方を手放すので25点以下になることもあります。多くの人はそれを恐れて、50点や100点を目指すことなく現状維持で満足します。「自分はこの程度」と諦めとともに、上を目指そうとしなくなります。
別に人の生き方に文句を言いたいわけではありませんが、たった1度の人生だから、リスクを負ってでも100点を取りに行きたいじゃないですか。それが男っていうものです。変化を恐れずに新しいことに挑戦する。そういう人間でありたいところ。
でも25点を取りに行く気持ちもわからなくはありません。ビジネスは学校の試験とは違って100点満点で評価されるわけではなく、最低限超えればいいラインを突破していれば、最低限のプラス評価はされるわけです。それ以上の努力をしたところで目先の給料は増えません。
しかも25点は「成功」なわけで、そこにしがみついていたほうが楽です。同じことを繰り返せばいいだけですから。でも栄枯盛衰と言われるように、25点の仕事をしていたら、いつの間にかその点すら出せなくなり、落第するわけです。
だから成功体験なんて忘れて、最初が25点なら次はやり方を変えて30点、さらにそこから工夫して60点を狙ったほうがいい。ビジネスの場では常に成長し続けることだけが生き残れる方法です。それがいいかどうかではなく、それがビジネス。
もっともビジネスを語れるほどの人間でもないので、あまり偉そうなことは言えませんが。ただ、少なくとも自分は高いハードルを設定して、そこを超えるための試行錯誤をする働き方を続けたいところです。ここまで書いて気付きましたが、これってマラソンと同じなのかもしれません。